【解説】遺言が必要なのは財産がたくさんある人だけ?
「ウチは財産が少ないから相続税も取られないし、遺言なんて大げさなものは必要ない」
本当にそうでしょうか?
相続税には様々な軽減措置が設けられており、ある程度の資産がなければ実際に相続税は課税されません。
しかし、だからといって相続に何の備えもせず遺言さえ残さないでいると、残された家族に大きな負担を強いる結果になってしまう場合があります。
どんな場合が考えられるでしょうか?
相続財産が土地家屋だけの場合
分割できない
相続財産が土地家屋だけの場合、遺産分割が難しくなります。
相続人全員の共有として登記することもできますが、台風で屋根が壊れたら、だれが修理費用を負担しますか?
あるいはその後の事情の変化により売却する必要が発生したらどうでしょうか。
相続人の誰かがなくなってさらに相続が発生した場合のことも考えてみてください。
共有財産にするというのは不可能ではないもののあまり現実的なこととは言えません。
分割によって価値が著しく下落することも
では土地家屋を分割しますか。それも不可能ではないかもしれません。
しかし分割によって道路に面している部分が少なくなってしまったりするなど、土地の価値が大きく下落してしまう場合があります。
極端な例では片方の土地は道路に面することができず、もう片方の土地を通って道路に出なければならないようなケースも考えられます。
そのような場合、当面は通路を使わせてもらう等の約束をして問題なく生活できるかもしれません。
でも代替わりするなどして遺産分割時の事情をよく知る人がいなくなってしまったら。
あるいは売却するなどして第三者が所有するようになったら。
複雑な権利関係は法律上の厄介な問題を抱え込むことになりかねません。
-売却すればいい?
このように預貯金や有価証券等に比べ土地家屋には分割が難しいという難点があります。
そのため分割を目的に土地家屋を売却せざるを得なくなる場合があります。
しかし、これもまた簡単にはいかない場合があります。例えば、その家屋が家業を継続するために必要だったらどうしますか。
商店を経営していて兄弟のうちの誰かがそれを手伝っていたような場合、土地家屋が残っていれば家業を継いで経営を続けていくこともできます。
しかし、遺産分割のために売却してしまったら経営を続けていくことは難しくなるかもしれません。
そうなると家業を手伝っていた子は失業してしまうことになります。
遺留分
このような事態を避けるためにも自分の亡き後に配偶者や子供たちそれぞれが生活していくことに支障が出ないよう遺言を残しておくことは残された家族への思い遣りと言えます。
さて、法定相続分とは異なる分割割合で相続させるよう遺言で指定する場合には遺留分に注意する必要があります。
遺留分とは直系に尊属・卑属に認められた権利で、相続人の構成によって異なりますが、概ね法定相続分の1/2が最低限の相続分として守られます。
遺留分と権利の例
例を挙げましょう
妻と長男、次男の2人の子がいる遺言者が4000万円の財産すべてを長男に相続させるという遺言を残したとします。
この場合、妻には法定相続分の1/2の遺留分が認められていますので
4000万円(相続財産)×1/2(法定相続割合)×1/2(遺留分)=1000万円
の請求をする権利があります。
同様に次男には
4000万円(相続財産)×1/2×1/2(法定相続割合)×1/2(遺留分)=500万円
の請求をする権利があります。
この遺留分を侵害する部分は遺言は無効になりますし、残された家族に無用な争いを生じさせる原因ともなりかねません。
兄弟同士、あるいは母と子の関係が良好な場合でも、遺産相続のような場面ではそれぞれの子や配偶者といった関係者が絡みます。
残された家族に余計な負担をさせないためにも遺留分を考慮した内容の遺言を作成する必要があるでしょう。
では土地家屋のみが遺産となってしまうような場合に、どのような相続対策を検討することができるでしょうか。
キーワードは、代償分割と生命保険です。
この話題については別の機会に解説したいと思います。