【障がい者の相続問題】自閉症等の子供を守る為の3つの制度

①障がい者のために遺言として残す

障がいなどの理由により特別にケアが必要な子どもを抱えた親たちにもしものことがあったら…

今、「障がい者の親亡き後問題」が深刻です。

親が元気なうちはしっかり守ってあげることが出来る。

しかし、親がやがて歳をとり、身体の自由が利かなくなったり、病気で長期の入院が必要になったり、介護施設への入所が必要になったりした時、さらに親が亡くなってしまった時、あとに残された障がいを抱える子供がその後の人生を生きていくために、何が出来るでしょうか。

 

判断能力が十分にない障がい者を守る難しさ

障がいにもさまざまなものがありますが、例えば四肢の麻痺等があるものの判断能力は十分にあって、自分一人で各種契約を行なって必要なサービスを受けたりすることが出来るのであれば、ある程度のおカネと、生活の場となる家が残れば社会福祉制度を活用しながら生きていくことが出来るかもしれません。

しかし、判断能力が十分でなく、自分ひとりで身の回りのことを行なうことが難しいだけでなく、それを誰かに依頼したり、福祉制度を活用するために契約の当事者となったりすることも困難である場合、どうすれば残された子供を守ってあげられるか、これはたいへん悩ましい問題となります。

 

障がい者を守ることについて考えてみる

おカネを残してあげれば大丈夫でしょうか?

そのおカネを管理できますか?

浪費してしまったり、もっと悪い事に詐欺にあうなどして奪われてしまう心配はないでしょうか?

そのようなことがあれば、どれだけおカネを残してあげても、子どもを守ることは出来ません。

 

障がい者が判断・行動できないことも多い

あるいはおカネがあっても、それを有効に使って自分の生活を守ることは出来ますか?

福祉サービスや病院への入院が必要になった場合、契約の当事者となることが出来ますか?

せっかく残してもらった家が老朽化して雨漏りするようになったら?

リフォーム業者との打ち合わせや、工事契約の取り交わしは誰が行いますか?

 

判断能力が十分にない障がい者のための3つの制度

考えれば考えるほど、解決すべき問題が浮かび上がってきます。

このように、親亡き後問題に悩む親の皆さんが検討することの出来る事前対策としては次に挙げる3つの制度の活用があります。

①遺言

②成年後見制度

③民事信託

順を追って説明しましょう。

 

①障がい者のために遺言として残す

遺言によって出来る事は財産を遺してあげる事です。

現預金、有価証券、土地建物の不動産…

これらを遺してあげることは出来ますが、管理してあげることは出来ません。

前述の詐欺被害などから子どもと承継財産を守ることは出来ないのです。

遺した財産をケーキに例えてみましょう

①障がい者のために遺言として残す

登場人物は親であるあなた、その子ども太郎くんです。

ケーキはまるごと太郎くんの手に渡ります。

管理の上手な子どもであればケーキを何等分かにして計画的に食べることが出来ます。

ところが管理の出来ない太郎くんは、ケーキをまるごと一度に食べてしまったり、ひっくり返して無駄にしてしまったりするかもしれません。

 

②障がい者ための成年後見制度を利用する

成年後見制度は民法に定められた法制度です。

これを利用する事により財産の管理は後見人となった人に行ってもらうことになります。

また、契約等の法律行為の代理人にもなりますので、子どもの生活を最低限確保することが出来ます。

ただし、いくつか注意点があります。

まずは誰が後見人になるかという問題ですが、任命は裁判所が行います。

そして最近の傾向として、裁判所は兄弟や親類などの身内の後見人を認めないケースが目立った来ているようです。

そうなると、弁護士や司法書士といった専門職の後見人が(言い方は悪いですが見ず知らずの人が)突然、子どもの前に現れることになります。

また、財産の管理は裁判所が間接的に監督する事になりますので、子どもの生活向上のためであっても、積極的な財産活用はしづらくなります。

遺した財産をケーキに例えてみましょう

②障がい者ための成年後見制度を利用する

登場人物は親であるあなた、その子ども太郎くん、管理の得意な正くん、そして正くんを監督する厳しい守先生です。

ケーキは管理の得意な正くんが預かります。

太郎くんは一度にたくさん食べたがりますが、正くんは守先生の指示の下、一度に16等分したひとつづつしか太郎くんに渡しません。

太郎くんは誕生日に日だけでももう少し沢山ほしいと正くんにお願いしますが、守先生から一度に16分の1、と厳命されている正くんは聞き入れません。

 

③障がい者向けの民事信託を利用する

民事信託は信託法という法律の約80年ぶりとなる大改正により平成18年から可能になった方法です。

これを利用する事により、財産の管理人、財産の管理方法、さらには管理人にもしものことがあるなどの事情の変化があった時にどうするかなど、これらすべてを事前に契約で決めておくことが出来ます。

この契約は基本的には自由に設定することが出来ますし、財産の管理方法も裁判所の監督下に置かれることはありません。

遺した財産をケーキに例えてみましょう

③障がい者向けの民事信託を利用する

登場人物は親であるあなた、その子ども太郎くん、管理の得意な正くんです。

ケーキは管理の得意な正くんが預かります。

あなたは事前に正くんにケーキの渡し方を指示することが出来ます。

例えば…

・基本的には1回に16分の1づつ上げる

・もっと欲しがった時は、太郎くんの意見を確認し、もっともな理由がある時は16分の2つまりいつもの倍の量を上げるてもいい

太郎くんは一度にたくさん食べたがりますが、正くんはあなたとの約束(契約)の下、一度に16等分したひとつづつしか太郎くんに渡しません。

太郎くんは誕生日に日だけでももう少し沢山ほしいと正くんにお願いします。

正さんは太郎くんの主張がもっともな理由と考え、あなたとの約束(契約)の下、今回はいつもの倍、つまり16分の2を上げることにします。

 

3つの制度を組み合わせた最適な選択肢を考える

いかがでしょうか、例を挙げて説明しましたが、どれが良くてどれがダメというような事ではありません。

今回はそれぞれの特徴についてざっくりとした説明をするためこんな例えになってしまいましたが、実際にはこれほど単純な問題ではなく、多くの関係者が絡みますし、遺言、成年後見、民事信託、それぞれに他の方法では実現できないケースが存在します。

各制度を慎重に比較検討し、あるいはそれらを上手に組み合わせ、使い分けて、残された子どもの生活を守るために周到な準備が必要であることは言うまでもありません。