障害者の子への相続を遺言で取り決める方法
複数の相続人がいる場合の相続において、相続の割合などを遺言で調整する方法があります。ここではその遺言を利用した相続方法を例を挙げて解説していきます。
相続は法定相続が基本
被相続人(遺産を残す人)の死亡にともない相続が発生すると、基本的には民法で定められた法定相続分を基準に遺産が分割されることになります。
法定相続分は相続人(遺産を受け取る人)の構成によって計算が違ってきますが、配偶者と子が相続人になる場合はその他の親族、例えば被相続人の親や兄弟等は法定相続人とはなりません。
この場合の法定相続分は配偶者がいる場合は配偶者が1/2、子が1/2となります。
子が複数人いる場合は1/2を等分することになります。例を挙げますと、夫が1億円の資産を残して死亡、妻と2人の子供が残された場合、配偶者である妻が1億円の1/2に当たる5000万円を相続し、子の相続分である5000万円(1億円の1/2)を2人の子で2500万円づつ等分してそれぞれ相続することになります。
障害者である子への相続に特別な配慮をしたい
以上はごく一般的な家族構成の場合の教科書通りの相続ですが、様々な理由により、法定相続分とは異なる遺産分割を望む場合もあるでしょう。
例えば、子のうちの一人が障害者である場合はいかがでしょうか。
重度の身体的障害や知的障害のために自立して生活していくことが難しい子の将来を案じて必要と思われる財産を残してやりたい。そのために法定相続分を超えて相続させたい。あるいは健常者の子には留学や結婚などの際に様々な援助をしてきたが障害者である子には十分してあげられなかった。逆に健常者の子に色々と我慢を強いてきてしまったので、その分相続で配慮してあげたい等、遺産を残す親御さんの希望を遺産分割に反映させるにはどうしたらよいでしょうか。
遺言で相続人の遺産分割を指定する
そのような場合は遺言で相続分を指定するとよいでしょう。
遺言により相続人それぞれの相続分を指定したり、法定相続人以外の人へ遺産の一部を遺贈(つまり遺産を贈ること)したりすることが可能です。
例えば1億円の遺産のうち、配偶者である妻には老後の生活のために3000万円を相続させ、健常者である子Aには2000万円を相続させる。そして障害者である子Bには5000万円を相続させる、というようなことが出来るわけです。
遺言には特定の書式のようなものはありませんが、有効なものとするためにはいくつかの決まりを守らなければなりませんので注意が必要です。
例えば夫婦連名で作成した遺言は無効になりますし、20XX年7月吉日のような日にちを特定できない形式の日付では有効な遺言とは認められません。
また、遺言には公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、実際に利用されるのは公正証書遺言、自筆証書遺言が多いようです。
公正証書遺言は自筆証書遺言と比べて作成するために時間や費用がかかりますが、肝心の遺言が後で無効と判断されてしまう危険を減らすことが出来ますし、原本が公証役場に保管されますので破棄されたり、改ざんされたりすることがありません。
これら2種類の遺言のどちらが良いかはケースバイケースですので一概には言えませんが、いずれの場合でも行政書士等の専門家に相談しどちらの種類の遺言を作成するか、また書式や内容はどうするかについてアドバイスを受けることが、確実な遺言を残すうえで望ましいと言えるでしょう。
遺産分割の指定では遺留分に注意
遺言により法定相続分とは異なる遺産分割を指定することが出来ると説明しましたが、注意しなくてはならないのが遺留分です。
遺留分の計算は相続人の構成により異なりますが、配偶者や子の場合は法定相続分の1/2に当たる分となります。
また、遺留分が認められるのは配偶者および直系の尊属(父母、祖父母等)、卑属(子、孫等)だけですが、遺留分を侵害するような遺言はその分が無効とされる場合がありますし、なによりも争いの種を残すことになり兼ねませんので注意が必要でしょう。
前述のケースでは、配偶者である妻の相続分を2000万円とする遺言を作成した場合、本来の法定相続分5000万円の1/2である2500万円(これが遺留分となります)を下回ってしまいますので、遺留分を下回る500万円分は遺留分を侵害することになってしまいます。同様に、子Aの相続分を1000万円とする遺言を作成した場合は、本来の法定相続分2500万円の1/2である1250万円(これが遺留分となります)を下回ってしまいますので、遺留分を下回る250万円分は遺留分を侵害することになってしまいます。
このような事態が生じないように遺留分には注意して遺産分割割合を指定しましょう。
相続での争いを防ぐための気遣い
遺言には財産の処分(第三者への遺贈や寄付等)、相続に関すること(相続割合の指定や分割方法等)、親族関係に関すること(婚外子の認知や相続人の廃除等)を書くことが出来ますが、その他にも非常に重要なことを書くことが出来ます。それは残された家族への感謝や愛情を表したり、遺言で指定した内容の理由を説明し、なぜそのような遺言を残したのか、遺言者の気持ちを伝えることです。
遺言の中に付言事項としてこれらの言葉を含めることにより、残された家族は遺言の内容を納得して受け入れやすくなるでしょう。できれば相続人となるすべての人の名前を個別に挙げて感謝の言葉を伝えたいものです。
遺言・相続が確実に実行されるために
相続が発生すると手間と時間のかかる多くの手続きが必要になります。
まずはすべての法定相続人の洗い出しと相続財産の確認、財産目録の作成が必要です。
さらに相続税の計算やら相続財産の名義変更等、慣れない事務手続きは物理的にも大切な人を亡くして悲しみに暮れる中、精神的にも負担となるでしょう。残された家族の負担を少しでも軽くするためにも、あらかじめ遺言執行者を指定しておくとよいでしょう。遺言執行者には未成年や破産者を除く誰もがなることが出来ます。しかし、弁護士や行政書士等の専門家に依頼すればより安心と言えるでしょう。
遺言が見つかるようにする工夫
せっかく作成した遺言も、その存在がわからなければ実行されることはありません。
公正証書遺言にした場合は公証役場に原本が保管されますが、それでも相続が発生した時に公証役場の方から遺言の存在が通知されるわけではありません。
あらかじめ信頼のおける複数の人へ遺言の存在を伝えておくことが良いでしょう。
知的障害を持つ子がいる場合の相続への不安
子供がまだ未成年の場合は相続で財産を遺しても、上手に管理して生活してゆけるのかどうか、親の気持ちとすれば心配は絶えません。
まして知的障害を持つ子がいる場合はせっかく遺した相続財産が有効に活用されるのか、詐欺に遭うなどの被害が生じないかと不安も残るでしょう。
そのような場合は成年後見制度を活用することも検討してみてください。弁護士、司法書士、行政書士等で成年後見制度を扱っている専門家に相談されることをお勧めします。